たいくつバスター

ときめきに押し潰されたい

君が描く流線の美しさに見惚れて

父は野球が大好きで、高校生だった私に観たい番組があったとしてもそんなのお構いなしで野球中継を観ていた。プロ野球というとおじさんが好きなものというイメージがあったし、全然興味はなかったし、好きになる予定もなかった。

夜ご飯の時間の野球中継。何気なく目を向けた瞬間、打席に立っていたのが松本哲也だった。名前すら知らない選手がその打席でヒットを打ったかバントをしたか凡退したかなんてそりゃあ覚えていないけれど、「私が好きになるのはこの人だ」と思ったのは覚えている。その日からずっとずっと好きだ。そんな私の大好きな松本哲也が引退する。


【巨人】松本哲也が引退…育成から09年新人王獲得した“育成の星” : スポーツ報知

正直、意味がわからない。今季は2軍暮らしだったけれど、大きな怪我もなく.288という打率で盗塁もトップで、来季こそ1軍だなと思っていた。東京ドームの大歓声に迎えられて恥ずかしそうにする松が頭のなかにいた。私の幸せな妄想が壊れないでほしかった。今季1回でも1軍に上げてもらえれば何かが違ったのかもしれない、首脳陣は見る目がない――こんなことを泣きながらグチグチこぼすようなファンのことを、真っ直ぐな松は嫌うかもしれないけど、少しの間は許して。ごめんなさい。


「この人誰?」と父に聞いて名前を覚えてから松が出る試合は観ていた。周りの選手よりも一際小さな身体でバットを振り回してグラウンドを駆け回る姿が画面に映るだけで、なぜだか嬉しくて仕方なかった。身体を張ったプレーが多かったからひやひやしたし、怪我が多かったからやきもきしたし、でもそれ以上に松が野球をしている姿にワクワクした。ドキドキした。

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このワクワクがメーターを振り切ったのは2010年のオールスターゲーム。選出されて、ヒットを打って、出塁して。努力家の松だから簡単に何度も奇跡みたいなことを起こせちゃうんだぞと誇らしかった。走ってスポーツ紙を買いに行ったのなんてこのときだけだ。

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2012年の対阪神戦にはドキドキが凝縮されている。好きな選手がスタメンで活躍してチームが勝つって最高すぎるにもほどがあった。松が泣きながら受けたヒーローインタヴュー、 あの場に居合わせられたことは今振り返ると運命だったと思う。この人のことを好きでよかった、これからも好きでいようと改めて思った日だったから。そして松本哲也最後のヒーローインタヴューだから。

“平成の青い稲妻”松本哲 涙のお立ち台!V打&美技― スポニチ Sponichi Annex 野球

これ以外にもたくさんたくさん松には胸の高鳴りをもらった。松の代名詞のようなダイビングキャッチもそうだ。できないだとか怖いだとかマイナスの感情をすべて捨てて、できると信じて飛ぶ姿はほんとうにかっこよかった。というか今でも1番かっこいい。自分を信じられるというのは、松が全力で努力をしていることの体現だ。とにかくかっこいい。ボールを取ったあとにグラブを掲げる仕草も、チームメイトに褒められたあとの笑顔も、大好きだった。

"育成の星"という看板を背負っていることや"新人王"という肩書きがあることが、支えになりながら松の重荷にもなっていたはずだ。苦しい瞬間と報われた瞬間、どっちが多かったかなんて聞かなくてもなんとなくわかるけど、聞いてみたい。松は優しいから予想と違う答えをくれるんだろうなと思う。


ネットのニュース記事を読んでも公式が上げた引退会見の動画を見ても、まだ受け入れられない。辞めないで。引退なんて早すぎるよ。まだやれるよ。1軍に上がってくるの待ってるよ。ずっと応援してるよ。こんな言葉が全身を無限にループする。夢だったらいいのにと思うけど、何度寝て覚めてもこれは夢じゃない。

ただ1つよかったと素直に思えたのは引退会見で松が辛そうな顔をしていなかったこと。寂しそうではあったけど、凛としていた。いつか笑って観られますように。


読売巨人軍 松本哲也選手 現役引退記者会見 - YouTube

球団に行く末を決められる前に自分で引退を決めるところ、自分に期待してくれた球団で終わらせるところ。どこまでも真っ直ぐすぎて、こんなところでもまた私はこの人のことがやっぱり好きだと思った。ねえ最高だよ!!!!!愛してるよ!!!!!

悲しかったときも息苦しかったときも、松がいたから前を向こうと思えた。これからもいろんな選手が出てくるだろう。それでも松を越える選手は出てこない、私のヒーローは松だけだと胸を張って言える。松に逢えて、松を好きになって、松を応援して、毎日キラキラドラマチックだったよ!

松がどんな道を選ぶのかまだわからないけれど、ゆっくり決めてほしい。欲を言えば野球に携わっていてくれたらと思うけど、とにかく松が幸せならいい。


私のヒーローは今季最終戦を終えたらもうプロ野球選手として打席に立たないし、グラウンドを走り回らない。だけど、私は一生松本哲也のユニフォームを着て球場に行って、松本哲也のことを見つけてくれた球団のことを応援しようと思う。


松が頑張った11年間のほとんどをファンとして過ごせてよかった。ほんとうにありがとう。